【獣医師解説】犬の予防接種の必要性とは?狂犬病・混合ワクチンなどの種類や費用相場を解説
犬を飼う際に知っておかなければならないのが、予防接種です。狂犬病の予防接種は、年に1回必ず受けなければなりません。さらに、混合ワクチンを接種することで、さまざまな感染症から愛犬の身を守れます。感染症の中には、致死率の高い危険なものや、人間にも感染するものもあるため、ワクチン接種が重要です。
今回は、犬の予防接種の必要性や、飼い主に義務づけられている狂犬病の予防接種、混合ワクチンで予防できる感染症や予防接種の費用相場などを解説します。犬のお迎えを検討している方や、犬を飼い始めたばかりの方は、ぜひ参考にしてください。
- 犬の予防接種が必要な理由
- 狂犬病の予防接種が義務付けられているのはなぜ?
- 狂犬病の予防接種を受けられる時期はいつ?
- 任意の混合ワクチンで予防できる感染症の種類
- 犬のコアワクチンで予防できる感染症
- 犬のノンコアワクチンで予防できる感染症
- 愛犬に合った混合ワクチンの選び方
- 犬のワクチン接種にかかる費用の相場
- 犬の予防接種を行う際の注意点
- 犬の感染症の発症率
- 愛犬の"もしも"に備えて「ペット保険」の検討を
- まとめ
犬の予防接種が必要な理由
愛犬の健康を守るためには、予防接種を行いましょう。犬にはさまざまな感染症にかかるリスクがあり、中には命の危機を脅かす危険な感染症も存在します。
予防接種を受けることで、ウイルスや細菌といった病原体から体を守るための抗体ができます。そのため、感染症を予防できたり、感染症にかかった場合も症状を軽減できたりするのです。
予防接種には、愛犬を感染症から守る効果のほか、愛犬からほかの犬への感染や、愛犬から人間への感染を防ぐ効果もあります。ペットホテルやドッグランなど、複数の動物が集まる施設を利用する際は、予防接種をしていないと利用できない場合もあります。
狂犬病の予防接種が義務付けられているのはなぜ?
日本では、厚生労働省が定める狂犬病予防法により、年1回の狂犬病予防接種が義務づけられています。予防接種は、犬を飼うすべての飼い主の義務です。
予防接種を行わないと、20万円以下の罰金が科せられる可能性があります。何よりも、狂犬病は非常に恐ろしい感染症です。愛犬やほかの犬、自分自身やまわりの人を守るためにも、必ず狂犬病の予防接種を受けましょう。
そもそも狂犬病とは
そもそも狂犬病とは、人畜共通の感染症です。犬が狂犬病を発症すると、狂躁時と麻痺時双方の症状が見られます。狂躁時では、凶暴化し、大きな鳴き声をあげながら見境なく噛み付くようになります。麻痺時は、狂躁時のように激しい症状は現れませんが、頭や頸の筋肉が麻痺してしまうため、食事をとるのが難しくなります。特別な治療法はなく、発症すると最終的にはほぼ100%の確率で死に至る、恐ろしい感染症です。
狂犬病は、人間にも感染します。人間が狂犬病ウイルスを持つ犬や猫、コウモリなどの動物に引っ掻かれたり噛まれたりすると、傷口からウイルスが侵入し、狂犬病を発症してしまうのです。
日本国内では、人間は1956年、動物(猫)は1957年を最後に、狂犬病の発生例は報告されていません。国内では清浄化したとされるものの、後進国を中心に、海外ではいまだに狂犬病が発生しています。海外から狂犬病ウイルスが侵入する可能性もあるため、狂犬病ワクチンを接種しなければなりません。
また、海外で犬に噛まれて狂犬病に罹患し、帰国後発症して死亡した事例もあります。くれぐれも、海外で犬や野生動物に接触することは避けましょう。
狂犬病の予防接種を受けられる時期はいつ?
狂犬病の予防接種は、年に1回受ける必要があります。
狂犬病の予防接種は、生後91日から受けられます。生後91日以上の犬を飼い始めたら、30日以内に市区町村の集合注射または動物病院で接種しましょう。翌年以降は、毎年4月1日から6月30日の間に接種してください。
動物病院で接種すると、注射済証が渡されます。注射済証を市区町村の窓口に持参し、「狂犬病注射済票」の交付を受ける手続きが必要です。
任意の混合ワクチンで予防できる感染症の種類
ワクチンには、コアワクチンとノンコアワクチンがあります。コアワクチンとノンコアワクチンは、それぞれ予防できる感染症が異なります。
コアワクチンは、犬ジステンパーウイルスや犬パルボウイルスなどの危険な感染症を予防でき、接種が強く推奨されるワクチンです。ノンコアワクチンは、犬パラインフルエンザウイルス感染症や犬コロナウイルス感染症といった感染症を予防でき、接種が推奨される特定感染症向けのワクチンです。
コアワクチンとノンコアワクチン対象の複数の病気を予防できるのが、「混合ワクチン」です。混合ワクチンは、接種が義務付けられている狂犬病ワクチンとは異なり、飼い主の判断で任意で接種できます。しかし、愛犬の健康を守るために、なるべく接種するようにしましょう。
混合ワクチンで予防できる感染症は、ワクチンの種類によって異なりますが、一般的には2〜8種を予防できるものが多いです。
犬のコアワクチンで予防できる感染症
コアワクチンで予防できる感染症は、以下のとおりです。
- 犬ジステンパーウイルス感染症
- 犬パルボウイルス感染症
- 犬伝染性肝炎
- 犬アデノウイルス2型感染症
ここでは、それぞれの感染症について解説します。
犬ジステンパーウイルス感染症
犬ジステンパーウイルス感染症は、犬ジステンパーウイルスによる伝染性疾患です。感染した犬の唾液や鼻水、排泄物などとの接触や、飛沫によって感染します。ウイルスは、鼻や喉から侵入し、やがて体内のリンパ節で増殖して全身に広がっていきます。
初期症状は、鼻水や目ヤニ、発熱、食欲の低下などです。やがて麻痺や痙攣などの症状が現れ、感染後2週間から数ヶ月程度で死に至るケースが多く見られます。
犬ジステンパーウイルス感染症は、ニホンオオカミの絶滅原因となった疾患としても知られています。致死率が非常に高く、有効な治療法はありません。完治したとしても、神経症状といった後遺症が残ることが多い、恐ろしい感染症です。
治療法は、自然治癒力を高めるための対症療法です。 ほかの犬に感染しないよう入院して隔離し、抗生物質投与や輸液療法などを行います。なお、治癒しても神経症状が残る場合があります。
犬パルボウイルス感染症
犬パルボウイルス感染症は、パルボウイルスによって引き起こされる感染症です。感染した犬の排泄物や吐瀉物と接触することで感染します。
パルボウイルスは、感染力や抵抗性が非常に高いのが特徴で、激しい下痢や嘔吐、発熱、脱水症状などが見られます。白血球が減少するのも特徴です。その症状は激甚で、はじめて日本で発見された際は、毒物を投与されたと思われたほどです。
特に、免疫力がない子犬が感染すると死に至る可能性が高く、妊娠中のメスが感染すると、流産や死産の原因にもなります。
有効な治療法はなく、犬が持つ免疫によって、パルボウイルスが体内から完全に排除されるのを待つしかありません。犬の体力や免疫力を高めるための対症療法や補助療法を行う必要があります。
犬伝染性肝炎
犬伝染症肝炎とは、犬アデノウイルスI型によって起こる感染症です。感染した犬の唾液や鼻水、排泄物との接触によって感染します。空気感染はしません。
嘔吐や発熱、下痢などの症状が現れますが、症状は犬によってさまざまです。鼻水程度の軽症で済む場合もあり、中には症状が現れないケースもあります。しかし、肝臓の機能不全や神経症状などの重い症状が現れることもあり、急速に悪化して突然死してしまうリスクもあります。さらに、ほかのウイルスとの混合感染を引き起こすと、致死率がかなり高まる危険な感染症です。
感染後回復期には、角膜の混濁で「ブルーアイ」と呼ばれる症状が出ることがあります。以前はワクチン接種後にブルーアイが出ることもありました。さらに、回復後も半年以上尿中にウイルスを排出するとされており、注意が必要です。
有効な治療法はなく、対症療法・補助療法が行われます。肝機能が低下して血液凝固不全が見られる場合は、輸血を行うこともあります。
犬アデノウイルス2型感染症
犬アデノウイルス2型感染症は、犬アデノウイルス2型に感染することで、呼吸器症状を引き起こす病気です。犬伝染性喉頭気管炎とも呼ばれます。感染した犬の分泌物や排泄物との接触や、咳やくしゃみなどの飛沫物によって感染します。
感染すると、咳やくしゃみなど、風邪のような症状が現れます。単独では致死率は低いですが、ほかのウイルスや細菌との複合感染を起こすと、重症化するリスクが高い点に注意が必要です。
有効な治療法はないため、抗生剤の投与や点滴、咳止めなど、症状にあわせて対症療法が行われます。
犬のノンコアワクチンで予防できる感染症
ノンコアワクチンで予防できる感染症は、以下のとおりです。
- 犬パラインフルエンザウイルス感染症
- 犬コロナウイルス感染症
- 犬レプトスピラ症
ここでは、それぞれの感染症について解説します。
犬パラインフルエンザウイルス感染症
犬パラインフルエンザウイルス感染症は、犬パラインフルエンザウイルスの感染により、呼吸器症状を引き起こす感染症です。「ケンネルコフ」とも言われます。感染した犬の分泌物を介して感染し、感染すると咳や鼻水、発熱などの風邪に似た症状が現れます。
単独での致死率は高くないものの、ほかの感染症との複合感染によって重症化するリスクがあります。
ウイルスに対する有効な治療薬はありません。症状にあわせて、対処療法が行われます。
犬コロナウイルス感染症
犬コロナウイルス感染症は、犬コロナウイルスに感染することで、消化器症状が現れる感染症です。感染した犬の排泄物を口から取り入れることで感染します。
成犬の場合、感染しても症状が現れない場合が多いです。しかし、犬パルボウイルス感染症との複合感染によって、重症化する可能性があります。また、子犬が感染すると嘔吐や下痢などの消化器症状が見られ、重症化しやすい傾向にあるため注意が必要です。
犬の抵抗力によって回復するのを待つしかなく、点滴や抗生物質の投与など、対症療法が行われます。
犬レプトスピラ症
犬レプトスピラ症は、レプトスピラという細菌の感染により引き起こされます。犬から人間に感染する恐れもある、人獣共通感染症です。感染した動物の尿や、レプトスピラ菌に汚染された土壌や水に接触することで感染します。
症状が出ない「不顕性」、腎炎や出血性胃腸炎などが起こる「出血型」、嘔吐・痙攣・黄疸などが出る「黄疸型」があります。肝臓や腎臓を初め、さまざまな臓器に影響を与える感染症です。
また、レプトスピラ菌には250以上の血清型があり、血清型によって、「甚急性」「急性」
「亜急性」「慢性」と、症状の度合いや進行の速さが異なるのも特徴です。さらに、回復後も慢性腎不全や慢性進行性肝不全が残る場合もあります。
症状によって治療法は異なりますが、基本的には抗生物質を投与してレストピラの排出を待ちます。回復後も、数ヶ月から数年にかけて、尿中にレプトスピラを排泄するため、飼い主やほかの犬への感染に注意しなければなりません。
愛犬に合った混合ワクチンの選び方
何種類の混合ワクチンを接種すべきかは、愛犬の状態や生活スタイルなどによって異なります。
シニア犬やアレルギー体質の犬、持病がある犬については、6種混合ワクチンが推奨されます。ワクチンによるアレルギー反応や副反応のリスが怖い場合は、事前に抗体検査を実施するとよいでしょう。動物病院で血液検査を行うことで、抗体があるかを調べられます。詳しくは、かかりつけの動物病院に相談してください。
健康状態が良好で外出の機会が多い犬や、ほかの犬との接触が多い場合は、8種または10種の混合ワクチンが推奨されます。
お住まいの地域や動物病院で流行している感染症の情報を収集し、獣医と相談したうえで、愛犬にあった混合ワクチンを選びましょう。
犬のワクチン接種にかかる費用の相場
狂犬病ワクチンには、自治体が実施する集団接種で受けるか、動物病院で受けるかの2つの接種方法があります。費用相場は、以下のとおりです。
接種方法 | 費用相場 |
---|---|
自治体による集団接種 | 3,000円前後 (接種費用) + 550円 (「狂犬病予防注射済票」交付手数料) |
動物病院 | 約3,000〜4,000円 |
自治体や動物病院によって料金は異なるため、事前に確認しましょう。
混合ワクチンの費用は、予防できる病気の種類によって異なります。1回で5,000〜10,000円程度が相場です。
なお、犬のワクチン接種はペット保険の補償対象外であるケースがほとんどです。ワクチンで予防できる感染症についても、補償対象外となっていることが一般的であるため、注意が必要です。
犬の予防接種を行う際の注意点
愛犬の予防接種を行う際は、以下の2点に注意しましょう。
- ワクチン接種のタイミングを見極める
- 接種当日は安静に
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
ワクチン接種のタイミングを見極める
ワクチン接種は、愛犬に少なからず負担をかける行為であるため、健康な状態で行いましょう。狂犬病ワクチンと同時に混合ワクチンを接種させることは控えてください。現在病気で治療を行っている場合は、治療を優先し、ワクチンを後日接種するという選択肢もあります。接種タイミングについては、動物病院に相談しましょう。
接種当日に愛犬の体調が悪かったり、機嫌が悪かったりする場合は、別日に変更することが望ましいです。
接種当日は安静に
ワクチンを接種した当日は、長時間の散歩や激しい運動を避け、安静にさせましょう。ワクチンには、以下のような副反応のリスクがあります。
- 食欲不振
- 顔の腫れ(ムーンフェイス)
- 嘔吐
- 下痢
- 発熱
犬の感染症の発症率
伴侶動物ワクチン懇話会が実施した「犬と猫の感染症調査」によると、2013年9月から2015年8月の2年間、全国600軒の動物病院のうち、混合ワクチンで守れる感染症が診断された割合は56.8%でした。
地域別の割合は、以下のとおりです。
北海道・東北 | 54.7% |
関東 | 53.5% |
北陸・中部 | 63.0% |
関西 | 49.0% |
中国・四国 | 77.6% |
九州・沖縄 | 58.8% |
感染症のリスクは、日常のあらゆるところに潜んでいます。いつどこで発症するかわかりません。愛犬の健康を保つためには、ワクチンの接種が重要です。
出典:いぬねこワクチン「地域別(都道府県別)犬感染症発生状況マップ(2014−2015年版)」
愛犬の"もしも"に備えて「ペット保険」の検討を
愛犬のもしもの病気やケガのリスクに備えて、ペット保険の加入を検討しましょう。ペットには、人間のような健康保険制度がないため、高額な医療費を自己負担する必要があります。
ペット保険に加入すれば、病気やケガの際にも安心して対応できます。
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まとめ
今回は、犬の予防接種の必要性や狂犬用・混合ワクチンなどについて解説しました。予防接種は、狂犬病やそのほかのさまざまな感染症から愛犬を守るために、非常に重要な役割を果たします。狂犬病の予防接種は飼い主の義務であるため、年に1回必ず受けましょう。また、混合ワクチンにはさまざまな種類があるため、動物病院と相談しながら、愛犬にあったワクチンを選んで接種してください。